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松江地方裁判所 昭和49年(ワ)100号 判決 1975年12月10日

昭和四九年(ワ)第一〇〇号事件原告

一畑電気鉄道株式会社

(昭和五〇年(ワ)第六〇号事件被告)

昭和四九年(ワ)第一〇〇号事件被告

岡山県貨物運送株式会社

(昭和五〇年(ワ)第六〇号事件原告)

昭和五〇年(ワ)第六〇号事件原告

須山基

主文

一  第一〇〇号事件被告岡山県貨物運送株式会社は同事件原告一畑電気鉄道株式会社に対し金四〇万六三八円およびこれに対する昭和四八年九月二七日より右完済まで年五分の金員を支払え。

二  第六〇号事件被告一畑電気鉄道株式会社は同事件原告須山基に対し金一五万二九九九円およびこれに対する昭和四八年九月二七日より右完済まで年五分の金員を支払え。

三  第一〇〇号事件原告一畑電気鉄道株式会社、第六〇号事件原告須山基の各その余の請求ならびに第六〇号事件原告岡山県貨物運送株式会社の請求をそれぞれ棄却する。

四  第一〇〇号事件原告兼第六〇号事件被告一畑電気鉄道株式会社と第一〇〇号事件被告兼第六〇号事件原告岡山県貨物運送株式会社との間に生じた両事件を通じた訴訟費用は、一〇分し、その九を岡山県貨物運送株式会社の、その余を一畑電気鉄道株式会社の、各負担とし、第六〇号事件原告須山基と同事件被告一畑電気鉄道株式会社との間に生じた訴訟費用は一〇分し、その六を須山基の、その余を一畑電気鉄道株式会社の、各負担とする。

五  第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一各原告の申立

(一)  第一〇〇号事件につき、原告一畑電気鉄道株式会社(以下一畑電鉄ともいう)

「被告岡山県貨物運送株式会社(以下県貨物ともいう)は原告一畑電鉄に対し六四万二七三〇円およびこれに対する昭和四八年九月二七日より完済まで年五分の金員を支払え。」との判決ならびに仮執行

(二)  第六〇号事件につき、原告県貨物、同須山

「被告一畑電鉄は、原告県貨物に対し四一万四三〇〇円、同須山に対し一〇四万六四二〇円および右それぞれに対する昭和四八年九月二七日より完済まで年五分の金員を支払え。」との判決ならびに仮執行

第二双方の主張

一  当事者間に争いない事実

(一)  本件交通事故の発生

発生時 昭和四八年九月二六日午後二時四〇分頃。雨天。

発生地 出雲市白枝町四九〇番地先県道出雲大社線上(東西路)

態様 横木勲運転にかかる一畑電鉄所有の大型観光バス(以下バスともいう)が県道を東進し、他方須山運転にかかる県貨物所有の普通貨物自動車島根四あ二九五二号(以下トラツクともいう)が前出県道を対向西進していたところ、トラツクがスリツプしながら中央線を超えてバスの進行車線に進出して、両車の衝突をみた。

結果 (1) バスは前部を中心に破損した。

(2) トラツクは大破した。

(3) 須山は傷害を蒙つた。

(二)  責任原因

(1) 県貨物は須山を従業員として使用し、当時須山は県貨物の業務の執行としてトラツクを運転していた。

(2) 一畑電鉄はバスを運行の用に供し、かつ横木勲を運転手として使用し、その業務中に本件事故が生じた。

(三)  填補

須山は自賠責保険金五〇万円および労災保険金一一万二六七一円の支給を受けた。

二  争点

一畑電鉄の主張

県貨物、須山の主張

(四) 過失の帰属

本件事故は須山の過失によつて生じた。すなわち、須山は事故六ケ月前に運転免許を取得したばかりのものであり、降雨中のアスフアルト路を時速約六〇キロで走行し、対向のバスが約九〇米前方で中央線をオーバーしているという一事から、同車が自車線内に戻ろうとしているのにこの状況を見極めず、滑り易い路面状態を考慮せずに、車間約五〇米という制動不要の地点であわてゝ急制動をかけ、ために滑走の上東進車線内に進入して衝突したものである。本件事故は右の如き須山の未熟運転に因る判断の誤りに基く不必要な制動をかけた過失によつて発生した。前記制動時にはバスは左転把を既に開始して車体の半分を自車線内に戻し、離合までに自車線内にゆうに入りきれるものであつて、横木に落度はない。

(四)

本件事故は須山の過失によつてではなくバス運転手横木の過失によつて生じた。すなわち、横木は中央線を超えて漫然と進行して須山の進路を妨害し、ために須山は正面衝突の危険を回避するためやむなく急制動の措置をとつたところがスリツプして東進車線に入り衝突をみたものである。横木には対向車を無視した無暴運転があり、前方不注視ないしハンドル操作不適当の過失がある。

(五) 一畑電鉄の損害

バスが衝突破損したことによる費目、数額は別表一のとおり。特記は左の如し。

Bにつき。

被害バスの修理に一〇日間を要してその間休車し、同車の運賃日収は事故前六ケ月を通じ平均四万一四一二円であり、その経費は四割である。

(五)

不知。

(六)

不知。

(六) 県貨物の損害

本件衝突破損による費目、数額は別表二のとおり

(七)

不知。

(七) 須山の損害

須山の受傷の部位程度、損害の費目、数額は別表三のとおり。特記事情は左記。

(1) 須山は頭部外傷Ⅰ型、頭部挫傷等を蒙り、入院加療六六日間、通院一四日間を要した。

(2) U3につき一日三〇〇円を相当

Vにつき須山の平均月額給与五万円を基礎として、受傷のための休業期間三月を要した。

(八) 須山に対する運行者免責の抗弁

本件事故は前示の如く須山の一方的過失によるもので、横木にはなんらの過失がなく、かつ須山の過失に加えてトラツクの後車輪タイヤが溝の殆ど消失するほど摩耗していたのになお運行に供していた県貨物の管理上の過失が加つて生じたものである。またバスには構造上の欠陥や機能障害はなかつた。

(八)

否認。

(九) まとめ

よつて一畑電鉄は県貨物に対し損害賠償金六四万二七三〇円およびこれに対する昭和四八年九月二七日より完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。

(九) まとめ

よつて一畑電鉄に対し、県貨物は四一万四三〇〇円、須山は一〇四万六四二〇円の各損害賠償金および右それぞれに対する昭和四八年九月二七日より完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。

第三証拠〔略〕

理由

第四争点に対する判断

一  過失の帰属

〔証拠略〕を綜合すると、以下のとおり認定できる。

事故当時は雨天でアスフアルト舗装の路面は湿潤していた。須山は車幅一・六九米のトラツクを運転して幅員約六米の狭い東西路を時速約六〇キロで西進し、緩い右カーブをなす道路の左車線内を進行中、前方約八七米の地点にセンターライン(尤もセンターラインは断続のものであり、以下でいうセンターラインとはセンターラインに相当する個所をも包含して用いる)をまたいで道路中央部を対向してくるバスを発見した。須山はバスが直ちに自車線内に戻るものと信頼して約五〇キロに自車を減速して走行を継続した。しかし右発見後約二三米進み、彼此車が次第に接近し相互距離約四八米に至つているのにバスが依然センターラインを超えて対進してくるのを認め、正面衝突の危険を感じ直ちに急制動を講じた。ところがスリツプして、右斜前方に滑走して九〇度近く右に回りこみ、東進車線に進入し、自車の左側面を対向するバスの正面に衝突させた。

一方、車幅二・四八米のバスは事故地点手前で左カーブをなす前記道路をセンターラインをまたいで時速約四〇キロで東進していたが、バス運転手横木は対向のトラツクを八〇米台前方に現認したものの、左カーブでありかつ大型車両ということで走行のふくらみを短時間に復元せず、徐徐に東進車線内に戻すように減速しつつ転把を講じて走行を継続したが、かかる中に双方の車両は約四八米の至近距離すなわち離合開始時までに約二秒の微小時間より残さない時点に至つたが、バスはこのとき前後車輪ともなおセンターラインを超えている状態であつた。この段階でトラツクが滑走を始め操縦の自由を失つて突込み、東進するバスと衝突したのであり、衝突時点でバスはなお反対車線内に自車の一部をはみ出させていたものである。

かように認定できる。〔証拠略〕中右認定に牴触する部分は措信しえない。

以上認定事実によつてみれば、まずトラツク運転手須山において、当時の路面状態に照し、急制動をかければ、摩擦力が乾いた路面の約半分であることより滑走して危険を招来するに至ることを職業運転手としてたやすく見抜ける筈であるのに、対向車両が道路空間を大きく占有する大型バスであり、かつ路幅が両車幅合計四・一七米と対比して極めて狭隘であつて両車を各自左側にかなり寄せないと安全に離合できない状況であるのにもかかわらずバスがセンターラインを超えたまま漫然と対向してくるのに狼狽の余り、急制動を講じて自車を滑走せしめ、よつて対向車線に突入した過失があるものというべく、またバス運転手横木においても、前示の如く狭くかつ湾曲して見透しの悪い道路をセンターラインを大きく超えて走行を継続し、対向のトラツクを現認した後も大型バスという優車の甘えからか、直ちに自車線内に戻るべき義務があるのになお対向車線に自車をはみ出させたまま進行し、よつて、離合時点では左車線内に入りきるという横木の目論見までは判りえよう筈がないトラツク運転手須山をして正面衝突の可能性を疑わしめてもやむをえない容態の運転に終始したものというべく、従つて横木には、路幅や対向車の接近状態を軽視した車線保持義務違背の過失があること明かといわざるをえない。本件事故はこのような双方運転手の過失の競合により発生したものというべきである。

二  一畑電鉄の損害

(1)  バス修理費

〔証拠略〕によれば、一畑電鉄はバスの修理費として三三万四、二六〇円を要したことが認められる。

(2)  逸失利益(休車損)

〔証拠略〕によれば、一畑電鉄主張の修理休車があり、これによつて少くともその主張の額の休車損を受けたことが認められる。

三  県貨物の損害

本件全証拠によるも県貨物主張の如きトラツクを修理した事実を肯認できない。〔証拠略〕によれば、トラツクは破損のため修理をせずに廃車としたことが認められるものの、当裁判所は、この廃車による損害をもつて修理費の請求数額に置換するのは相当でないと判断する。

四  須山の損害

(1)  傷害の部位、程度

〔証拠略〕によると、須山は本件事故により頭部外傷Ⅰ型、頭部挫傷、第一腰椎両側横突起骨折等の傷害を蒙り、事故当日より昭和四八年一一月三〇日まで六六日間入院加療、同年一二月一日より同月一四日まで実数四日の通院加療をし、同月末まで自宅療養を要したこと、入院当初の三六日間は絶対安静を要し、腰部にコルセツトを装着して体動は不可能であつて付添看護を要したこと、現になお悪天候の直前には腰部に鋭い痛みが走る後遺障害があること、以上が認定できる。

(2)  療養費

〔証拠略〕および右(1)の認定事実によれば、須山がその主張の治療費、付添看護費、入院雑費を要したことはたやすく肯認できる。

(3)  逸失利益

〔証拠略〕によれば、須山は事故日より昭和四八年一二月末日まで本件事故による受傷のため欠勤を余儀なくされたこと、須山が事故直前の昭和四八年八月に得た給与は本給、付加給を合して六万五四三円であり、付加給がその性質上稼働月により多少の差異を生ずるとしても、少くとも須山の給与はその主張の一ケ月五万円を下らないことが認められ、須山主張の逸失利益一五万円は相当として是認できる。

(4)  慰藉料

前認定の傷害の部位、程度等よりすれば、須山のうくべき慰藉料は三〇万円をもつて正当といいうる。

三  運行者一畑電鉄の免責の抗弁

一畑電鉄の運転手横木に過失があること前示のとおりであり、右抗弁は採りえない。

四  填補給付金の充当

須山が自賠責保険金および労災保険金として合計六一万二六七一円の給付をうけたことは争いない。ところで須山の損害賠償額算定につき過失相殺がなさるべきこと後に説示するとおりであるが、前記各保険金は被害者の救済を目的とする社会政策上の給付金であるから、加害者の任意弁済金の場合と異り、過失相殺前のいわば裸の損害に充当するのを相当とすべきである。この結果須山の損害残額は三三万三、七四九円となる。

五  過失相殺

過失の帰属の項で認定判断した須山と横木との各過失につき、その強弱を按ずれば、その度合は須山の過失六対横木の過失四とみるのを相当とする。従つて県貨物が一畑電鉄に支払うべき損害賠償額、一畑電鉄が須山に支払うべき損害賠償額は、相当と認めうる弁護士費用の事故時現価各一五パーセント(但し被乗数値は一万円以上の部分とする)を加算して、別表第一、第三の最下欄となる。

六  以上の次第で、一畑電鉄の県貨物に対する請求、須山の一畑電鉄に対する請求は主文第一、二項の各限度で認容しその余の各請求を棄却すべく、県貨物の一畑電鉄に対する請求は棄却することとし、民訴法九二条、九三条、一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 今枝孟)

別表第1(円) 一畑電鉄の損害

<省略>

別表第2(円) 県貨物の損害

<省略>

別表第3(円) 須山の損害

<省略>

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